ホームページ制作でトラブルになる場所は、だいたい決まっています。金額の大小ではなく、契約書のどこが書かれていなかったかで決まります。
そして揉めたときに効くのは、打ち合わせでの口約束ではなく、契約書と別表の記載です。言い方を変えると、契約時の30分で7か所を確認しておけば、後半の数週間が穏やかになります。
この記事では、制作側として実際に揉めやすい順に7か所を挙げ、何をどう確認すればよいかを書きます。発注する側が読む前提でまとめました。
一番大事なのは、金額でも納期でもなく「別表」です。 制作範囲を書いた別表に「含むもの」と並べて「含まないもの」が書かれているか。ここが空欄の契約書は、後から必ず揉めます。含まないものが書いてあるのは不親切なのではなく、お互いの認識が揃っている証拠だと考えてください。
① 制作範囲の別表 —「含まないもの」が書いてあるか
契約書の本文は、どの会社でもだいたい似た文言です。差が出るのは別表です。
| 別表に書くもの | 例 |
|---|---|
| ページ数と内訳 | トップ、会社概要、サービス(3枚)、お問い合わせ=計6ページ |
| 機能 | 問い合わせフォーム1つ、Googleマップ埋め込み |
| 支給されるもの | 写真・ロゴ・原稿はクライアント支給 |
| 含まないもの | 撮影、ロゴ制作、原稿執筆、多言語対応、EC機能、公開後の更新作業 |
「含まないもの」の欄が空、あるいは別表そのものが無い契約書は、範囲が無限になります。
制作側からすると、これは意地悪ではありません。範囲が決まっていないと見積もれないので、暗黙の前提を置いて金額を出すことになります。その前提が食い違ったとき、揉めます。
「別表が無い」と言われた場合は、打ち合わせの議事録をメールで送って合意を残すだけでも効果があります。「本日の内容で、制作範囲は以下と理解しました」と箇条書きで送り、返信をもらう。これが後から効きます。
② 著作権と所有権 — 納品後、自由に触れるか
「納品されたサイトは自分のものになるのか」。ここは条文の書き方で結論が変わります。
見るべきは2つです。
- 著作権の譲渡 — 「納品と同時に著作権は甲に移転する」と書かれているか(支払い完了後、という条件付きが一般的)
- 第三者の権利 — テーマ・プラグイン・写真素材など、制作会社のものではない部分がどう扱われるか
現実的には、有償テーマや写真素材の権利まで譲渡されることはありません。 重要なのは「譲渡されない部分がどれで、それを使い続けるのに何が必要か」が分かることです。テーマのライセンスが制作会社名義のままだと、契約終了後に更新できなくなります。
ドメインとサーバーの名義も同じ話です。詳しくは ドメインとサーバーは自社名義で持つべき理由 に書いています。
③ 修正回数 — 「何回まで」と「いつ数え始めるか」
「修正2回まで」と書かれていても、何を1回と数えるかが書かれていないことがよくあります。

確認するのは次の3点です。
| 確認する点 | よくある食い違い |
|---|---|
| 1回の単位 | 社内で意見をまとめずに小出しに送ると、それぞれ1回と数えられる |
| 数え始める工程 | デザイン案からか、実装後からか |
| 超えた場合 | 1回あたりいくらか、時間単価か |
実務上のコツは、社内の意見を1回にまとめてから送ることです。 3人がバラバラに連絡すると3回になります。まとめて送れば1回です。
修正と仕様変更の違いは 制作の途中で「やっぱりこうしたい」が出たときどうなるか にまとめました。
④ 検収と支払い — 「いつ完了したことになるか」
支払いの条件は、たいてい「検収完了後◯日以内」と書かれています。ではその検収はいつ完了するのか。
- 検収の期間(「納品から7営業日以内に検収」など)
- 期間内に連絡が無かった場合の扱い(「みなし検収」=自動的に合格になる条項があるか)
- 検収の基準(別表の内容を満たしていること、が一般的)
みなし検収の条項自体は、制作側が止まらないために必要なものです。問題は、発注側がその期間を知らないまま過ぎることです。 検収期間は必ずカレンダーに入れてください。
逆に、発注側として気をつけたいのは検収を引き延ばさないことです。「もう少し社内で見てから」と保留が続くと、制作側は次の案件に入れず、追加の要望も受けにくくなります。
⑤ 仕様変更の手続き — 書面で申し入れる流れがあるか
途中で要望が変わるのは普通のことです。問題は、その扱いが決まっていないことです。
良い契約書には、「書面で申し入れる → 追加費用と納期への影響を見積もる → 合意してから着手する」という流れが書かれています。この条項がある契約は、変更が起きても揉めません。
条項があっても、実際には使われないまま「サービスで」対応が積み上がることがあります。これは一見ありがたいのですが、どこまでが無償の範囲か分からなくなり、最後に「これ以上は」と言われる場面が来ます。 小さな変更でも「これは追加費用になりますか」と都度聞くほうが、お互いに健全です。
⑥ 納期の遅れ — 原因ごとに扱いが分かれているか
納期が遅れる原因は、制作側だけにあるとは限りません。
| 原因 | 一般的な扱い |
|---|---|
| 制作側の作業遅延 | 制作側の責任。遅延損害の条項が適用されることも |
| 支給素材(写真・原稿)の遅れ | 納期が後ろへずれる(発注側の責任) |
| 確認・承認の遅れ | 同上 |
| 仕様変更 | 変更の合意時に納期も再設定 |
実際に最も多いのは、支給素材と承認の遅れです。 ここが「発注側の事情による遅れは納期に加算する」と書かれているか確認してください。書かれていない契約は、遅れの責任があいまいになります。
発注側としては、素材をいつまでに出すかを自分側の締切としてカレンダーに入れるのが一番効きます。準備するものは ホームページ制作前に準備するもの にまとめています。
⑦ 解約と引き渡し — 途中でやめたらどうなるか
最後に、いちばん見られていないのにいちばん重要な条項です。
- 途中解約したとき、それまでの作業分の費用はどう精算されるか
- 制作途中のデータは引き渡されるか
- 公開後に保守契約を解約したとき、サーバー・ドメイン・管理権限はどう返されるか
3つ目は、契約時には想像しにくいのですが、数年後に効いてきます。 乗り換えたいときに動けるかどうかがここで決まります。実際に困った場合の手順は ホームページの制作会社を変更したい を参照してください。
契約書が無い場合はどうするか
小規模な案件では、契約書ではなく発注書・見積書だけで進むこともあります。その場合でも、次の3つをメールで残しておけば、実務上はかなり守られます。
「含むもの」「含まないもの」をページ・機能単位で。見積書の備考欄でも構いません。
「本日の内容を以下のとおり理解しました」と箇条書きで送り、返信をもらう。これが合意の記録になります。
「この変更は追加費用になりますか。なる場合は金額と納期への影響を教えてください」。この一文を送る習慣だけで、後半のトラブルはかなり減ります。
口頭の合意は、双方とも本当に忘れます。
よくある質問
- 契約書は制作会社が用意するものですか
-
一般的には制作会社側が用意します。内容に不安がある場合、修正を申し入れて構いません。とくに別表の「含まないもの」は、こちらから「ここも書いてください」と依頼して問題ない項目です。
- 印紙は必要ですか
-
請負契約にあたる場合、契約金額に応じて収入印紙が必要になります。電子契約(クラウドサインなど)で締結すれば印紙は不要です。当社では電子契約を基本にしています。
- 著作権を譲渡してもらえない場合、何が困りますか
-
別の会社に改修を頼むときに制限がかかる可能性があります。ただし実務では、「譲渡しないが、自社サイトとしての利用・改変は自由」という形も多く、それで足りるケースがほとんどです。譲渡の有無より、「他社に改修を頼めるか」を直接確認するほうが実用的です。
- 修正回数を超えそうです。どうすればよいですか
-
超える前に相談してください。多くの場合、内容によっては回数に数えず対応してもらえます。超えてから大量に送ると、そこで初めて追加費用の話になり、印象も悪くなります。
まとめ
制作契約で揉める場所は、毎回ほぼ同じです。
- 制作範囲の別表 — 「含まないもの」が書かれているか
- 著作権と所有権 — 納品後に他社へ改修を頼めるか
- 修正回数 — 1回の単位と、数え始める工程
- 検収と支払い — 検収期間とみなし検収
- 仕様変更 — 書面で申し入れる流れがあるか
- 納期の遅れ — 支給素材の遅れの扱い
- 解約と引き渡し — 途中解約と、保守終了時の権限の返し方
契約書が無くても、見積書の別表とメールでの確認で代替できます。ご提示された契約書で分かりにくい箇所があれば、該当の条項だけを伏せずにお送りいただければ、制作側から見た意味をお伝えします。お問い合わせからご相談ください。
