AIで減らせる事務作業の見つけ方|業務の棚卸しから最初の1つを選ぶまで

アイキャッチ — 机の上に積まれた事務作業の書類の山から、AIに任せられる作業だけが仕分けられて取り出されていく様子を表した図

「AIで事務作業が減るらしい」と聞いて、ChatGPTなどの生成AIを試してみたものの、何に使えばよいのか分からないまま止まっている——そういう状況の会社は少なくないはずです。試しに文章を作らせてみると、それなりのものは出てきます。ただ、それで社内の誰の仕事がどれだけ減ったのかと聞かれると、答えに詰まってしまいます。

原因はAIの性能ではなく、どの作業に使うかを決めないまま使い始めていることにあります。道具の使いどころは、道具の側からではなく、自社の仕事の側から探したほうが見つかります。この記事では、事務作業の中からAIで減らせるものを見つけるための手順を、棚卸しのやり方から最初の1つの選び方、効果の測り方まで順に整理します。

この記事の結論

AIで減らせる作業は、1週間の作業を書き出し、「頻度」「1回あたりの時間」「判断が要るかどうか」の3つで分けると見えてきます。向いているのは、何度も繰り返し、文章や表を扱い、最後に人が確認できる作業です。最初の1つは「効果が大きい作業」ではなく、失敗しても困らず、効果を数えやすい作業から選んでください。始める前に今かかっている時間を記録しておかないと、減ったかどうかを後から確かめられません。


目次

「AIで何かできないか」から始めると止まる理由

AIの活用を考えるとき、多くの人はAIでできることの一覧を見て、自社に当てはまるものを探します。文章の要約、メールの下書き、議事録の作成、表の整理。どれも便利そうに見えますが、この順番で考えると次の2つの理由で止まりがちです。

1つ目は、自社の作業の大きさが分からないまま選んでしまうことです。議事録の作成がAIで速くなったとしても、会議が月に1回しかなければ、減る時間はわずかです。一方で、毎日何十分もかけているのに当たり前になりすぎて誰も気にしていない作業が、実はいちばん時間を取っていることがあります。

2つ目は、任せてよいかどうかの判断がつかないことです。できることの一覧からは、その作業に顧客の個人情報が含まれるか、間違えたときに誰が困るかまでは分かりません。結局「便利そうだが怖い」で終わってしまいます。

順番を逆にして、先に自社の作業を並べ、そのあとでAIに向くものを選ぶ。遠回りに見えますが、こちらのほうが早く決まります。


手順1:1週間の作業をそのまま書き出す

まず、自分(または担当者)が1週間にしている作業を書き出します。大事なのは、細かすぎるくらいに分けることと、かかった時間を一緒に書くことです。

書き出し方のコツ

「経理」「総務」のような大きなくくりで書くと、どこにAIを使えるかが見えません。「請求書を作る」ではなく、「取引先ごとの金額を表に入力する」「請求書のPDFを作る」「送付メールを書く」「送ったことを台帳に記録する」のように、手を動かす単位まで分けてください。AIで減らせるのは、たいていこの細かい単位のうちの1つか2つです。

時間は正確でなくて構いません。「だいたい15分」「毎回30分くらい」で十分です。記憶だけで書くと少なく見積もりがちなので、できれば1週間、作業のたびにメモを取ってから振り返るほうが実態に近づきます。

書き出す項目記入の例
作業の内容問い合わせメールへの一次返信を書く
頻度1日に5件ほど
1回あたりの時間10分
使っている道具メールソフト、過去の返信文
判断が要るか内容によって返し方を変える
間違えたときの影響顧客に誤った案内が届く

この表を、思いつく作業の数だけ埋めていきます。20〜40行ほどになれば、棚卸しとしては十分な量です。

「当たり前の作業」ほど書き漏れます

毎日していることほど、作業として意識されていません。メールの振り分け、ファイル名の付け直し、別の表への転記、社内チャットでの報告文づくりなど、数分で終わる作業も省かずに書いてください。 1回は短くても、回数をかけると大きな時間になっていることがあります。


手順2:頻度・時間・判断の要否で分ける

書き出した作業を、3つの軸で分けていきます。

  • 頻度:毎日あるか、週に数回か、月に1回か
  • 1回あたりの時間:数分か、30分以上か
  • 判断が要るか:毎回ほぼ同じやり方か、状況を見て決める必要があるか

頻度と時間を掛け合わせると、その作業に月どれくらいの時間を使っているかが分かります。1日5件・1件10分の返信なら、1日50分、月に20日働くとすれば月1,000分、つまり17時間近くになります。この「月あたりの時間」が大きい作業ほど、減らしたときの効果も大きくなります。

そのうえで、判断の要否を見ます。毎回やり方がほぼ同じ作業は、手順を決めてAIに渡しやすい作業です。反対に、相手や状況によって判断が大きく変わる作業は、AIに任せきりにはできません。ただし、判断が要る作業でも、判断の前後には決まった手順の部分が含まれていることが多いので、作業をさらに分けられないかも見てください。

図解 — 書き出した作業を「頻度×時間」の大きさと「判断の要否」の2軸で4つの区画に仕分け、AIに任せやすい区画を示した図
図解 — 書き出した作業を「頻度×時間」の大きさと「判断の要否」の2軸で4つの区画に仕分け、AIに任せやすい区画を示した図

AIに向く作業・向かない作業の見分け方

3つの軸で分けたら、次はAIに向いているかどうかを見ます。ここでいうAIは、ChatGPTやClaude、Geminiのような、文章でやり取りする生成AIを想定しています。

向いている作業

生成AIが得意なのは、文章や表の形をした情報を、別の形に整える作業です。

  • 長い文章を短くまとめる(会議のメモ、届いたメールの要点)
  • 決まった型に沿って下書きを作る(お知らせ文、返信の下書き、社内向けの案内)
  • バラバラの情報を表の形に整える(箇条書きのメモを一覧表にする)
  • 言い回しを整える、誤字や表記の揺れを見つける
  • 手順書やマニュアルのたたき台を作る

これらに共通するのは、AIの出したものを人が読んで、正しいかどうかを確かめられることです。下書きに間違いがあっても、送る前に人が直せば問題になりません。

向いていない作業

反対に、次のような作業はAIに任せきりにしないほうが安全です。

  • 金額・日付・数量など、1か所でも間違えると損害が出る数字を扱う作業(請求金額の計算、支払いの処理)
  • 法律・税務・労務など、専門家の判断が必要な内容を最終決定する作業
  • 社外に確認なしでそのまま送られてしまう作業
  • 顧客の個人情報や、外部に出してはいけない社内情報を入力しないとできない作業

生成AIは、もっともらしい文章を作るのは得意ですが、その内容が事実として正しいかを保証するものではありません。また、会社として契約しているサービスかどうか、入力した情報がどう扱われる設定になっているかによって、入れてよい情報の範囲が変わります。何を入力してよいかを決めないまま使い始めないことが前提になります。

「向いていない」は「使えない」ではありません

請求書の作成そのものはAIに任せられなくても、送付メールの文面づくりは任せられます。向いていない作業も、どの部分なら人の確認を挟んで任せられるかに分けて考えてください。

作業の性質AIへの任せ方
繰り返す・文章や表を扱う・人が確認できる任せる候補。最初の1つはここから選ぶ
繰り返すが、数字の正確さが重要下書きや確認の補助まで。計算と最終チェックは人が行う
判断が要る・毎回内容が違う判断の材料集めや下書きまで。決めるのは人
個人情報・機密情報が必要入力のルールを決めるまで使わない
図解 — AIに任せやすい作業と任せきりにしない作業を左右に分け、中央で人の確認が入る位置を示した図
図解 — AIに任せやすい作業と任せきりにしない作業を左右に分け、中央で人の確認が入る位置を示した図

最初の1つの選び方

候補がいくつか挙がったら、最初に取り組む1つを選びます。ここでつまずきやすいのが、いちばん効果が大きそうな作業から始めてしまうことです。

効果が大きい作業は、たいてい業務の中心にあり、関わる人も多く、間違えたときの影響も大きくなります。慣れないうちにそこから始めると、うまくいかなかったときに「AIは使えない」という結論になりやすく、次の作業へ広げる機会を失います。

最初の1つは、次の条件を満たすものから選んでください。

  • 毎週ある:試す回数が多いほど、使い方に早く慣れる
  • 失敗しても社外に影響が出ない:社内向けの文書や、自分用のメモの整理など
  • 今かかっている時間が分かる:減ったかどうかを比べられる
  • 1人で完結する:他の人の作業手順を変えずに試せる

たとえば、「週1回の社内報告をまとめる」「受け取った資料の要点を自分用にまとめる」「よく届く問い合わせへの返信の下書きを作る(送るのは自分で確認してから)」のような作業は、この条件に当てはまりやすいはずです。

この段階で迷いやすいのは、「この作業はAIで本当に減るのか」「どのツールを使えばよいのか」「社内で何を入力してよいことにするか」の3つです。自社で判断がつかない場合は、当社のAI活用・業務改善支援で、棚卸しした作業の一覧をもとに、どの業務に・どのツールを・どの順で使うかを整理するお手伝いをしています。


効果の測り方

AIを使い始めたら、本当に作業が減ったかを確かめます。ここで「なんとなく楽になった」で終わらせると、次にどの作業へ広げるかを決める材料が残りません。

始める前の時間を記録しておく

効果を測るには、AIを使う前にその作業に何分かかっていたかが必要です。手順1で書き出した時間をそのまま使っても構いませんが、選んだ作業については、始める前に2〜3回分を計っておくと比べやすくなります。

見るのは「作業時間」と「直した量」

AIを使い始めてからは、次の2つを記録します。

  • 作業にかかった時間:AIへの指示を考える時間と、出てきたものを確認・修正する時間も含める
  • 人が直した量:ほぼそのまま使えたか、半分以上書き直したか

AIに出させるのは一瞬でも、確認と修正に時間がかかっていれば、作業は減っていません。指示の出し方を変えたり、使う型を決めたりすると、修正の量は回を追うごとに減っていくことが多いので、2〜4週間は続けてから判断してください。

記録する項目使う前1週目4週目
1回あたりの時間30分25分12分
修正の量—半分以上数か所
気づいたこと—指示が曖昧だった型を決めて安定した

※表の数字は記入の仕方を示す例です。

4週間ほど続けて時間が減っていれば、同じ性質の別の作業へ広げます。減らなかった場合も、それは「この作業はAIに向かなかった」という判断材料になるので、無駄にはなりません。

図解 — AIを使う前と使い始めてからの作業時間を、指示・確認・修正の内訳ごとに積み上げて比べ、確認と修正の時間が減っていく様子を示した図
図解 — AIを使う前と使い始めてからの作業時間を、指示・確認・修正の内訳ごとに積み上げて比べ、確認と修正の時間が減っていく様子を示した図

よくある質問

棚卸しは、担当者本人がやるべきですか?

作業を書き出すのは、実際にその作業をしている人がいちばん正確です。ただし、本人にとって当たり前の作業は書き漏れやすいので、上司や同僚が「この作業も入っていますか」と一緒に確認すると抜けが減ります。

無料のAIツールで試しても問題ありませんか?

試すこと自体は問題ありません。ただし、無料の範囲では入力した内容の扱いが会社契約のプランと異なることがあります。利用規約と設定を確認したうえで、顧客の情報や社外に出せない情報は入力しない、という線を先に決めてから使ってください。

社内でAIを使っていいか、まだ決まっていません。

その場合は、個人の判断で業務に使い始める前に、使ってよいツールと入力してよい情報の範囲だけでも社内で決めておくことをおすすめします。細かい規程を作り込む前に、最低限の線を引くだけでも始められます。決め方は「社内のAI利用ルールの決め方」で手順を追って説明しています。

棚卸しの結果を見ながら、どこから手を付けるかを相談したい場合は、AIの業務活用についての壁打ち相談・診断レポートもご利用いただけます。壁打ち相談では、AIで解決できることとできないことの切り分けを、診断レポートでは、どの業務に・どのツールを・どの順で使うかの整理を行います。


まとめ

AIで事務作業を減らすには、AIでできることから探すのではなく、自社の作業から探すほうが早く決まります。

  • 1週間の作業を、手を動かす単位まで細かく書き出し、時間も一緒に記録する
  • 頻度・1回あたりの時間・判断の要否の3つで分け、月あたりの時間が大きい作業を見つける
  • AIに向くのは、繰り返す・文章や表を扱う・人が確認できる作業。数字の正確さが重要な作業や、個人情報が必要な作業は任せきりにしない
  • 最初の1つは、毎週あり、失敗しても社外に影響が出ず、時間を測れて、1人で完結する作業から選ぶ
  • 始める前の時間を記録し、確認と修正の時間も含めて2〜4週間比べてから判断する

まずは今週、自分の作業を書き出すところから始めてみてください。20行ほど並べてみるだけでも、どこに時間を使っているかが、思っていたのとは違って見えてくるはずです。

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